せきぐち あいみ

VRアーティスト

VRの白い世界にある、額縁に飾られた絵画。その中に足を踏み入れると、平面では見ることのできなかった絵画の世界があたり一面に広がる。現実の世界では考えることのできなかった、“絵の中に入っていく”という感覚。それが、VRアートである。
VRアートでは、平面だけでなく奥行きを持たせたり、様々なエフェクトを使ったりすることができる。それによって動いているような作品を生み出せるのだ。
VR世界で描かれるアートというインパクトを持ちながら、VRアートはまだ多くの人々に知られていないのも事実だ。
私たちは、そんな魅力的なVRアートにいち早く着目し現在、もっとも注目を集める世界的VRアーティストのせきぐちあいみ様にお話を伺うことができた。

プロフィール

アイドル、女優、タレントとしての経歴も持つ。2016年からはVRアーティストとして活躍している。2017年には、クラウドファンディングで世界初のVRアートの個展を開催。そこからアメリカ、タイ、ロシアなど世界各国でライブパフォーマンスを披露。

2018年には福島県南相馬市の『みなみそうま未来えがき大使』に就任するなど日本国内外から注目されている。
また、SNSでのライブ放送や動画投稿もさかんに行っており、Twitterに動画をあげると17万以上の「いいね」がつくなど、企業だけでなく一般の人からの注目も多い。
現在はクリーク・アンド・リバー社所属。滋慶COMグループ、VR教育顧問。

VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内にとどまらず、海外(アメリカ、ドイツ、フランス、ロシア、UAE、タイ、マレーシア、シンガポールetc)でもVRパフォーマンスを披露して活動している。
2021年3月にはNFTオークションにて約1300万円の値を付け、落札され、同年12月ForbesJapanが選ぶ今年の顔100人「2021 Forbes JAPAN 100」にも選出された。

VRアートは世界を創っていけるという新しい感覚で取り組んでいる

私は右手のコントローラーでペンやブラシを使い、左手でパレットを使います。ツールから定規を出して直線を引くことができますし、そのほかにもいろいろな機能があります。色を選んだり、ペンの種類を変えて描いたりすることもできます。私には実際に、立体的に目の前に存在しているように見えています。

また、赤外線のセンサーがついていることでコントローラーがどこにあるのか、ゴーグルでどの角度から見ているのかといった位置の把握ができるので、三次元的に認識しながら表現しています。

拡大したり縮小したりしながら描いていくことも可能です。例えば、拡大して描くことでまつ毛など細かい毛髪を作り込んでいくこともできます。

奥行きを捉えられるので、心臓などを絵の中にさらに仕込むこともできます。VRならではの表現方法で意表を突けて楽しいなと思っています。絵を描くというよりも、VR空間に世界を創っていけるという新しい感覚で取り組んでいます。

制作時間は鳳凰をモデルにした作品ですと約2週間ほどです。

 

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VAのソフトやデバイスは現実の世界を空間に描くことができる優れものです

ソフトはGoogleのTiltBrushというものを使っています。またSketch Costを使用してどれくらい描いたのかも見ることができます。

また3Dデータに書き出して、別のソフトでプログラミングすることもできます。Tilt BrushはUnity3Dデータに書き出してSDKにいれると、綺麗に表示できます。

 

フォトグラメトリーで実際の地形をとり、3Dデータにしたものに描いていくことも可能です。私の作品に鎌倉の銭洗弁天に使いの蛇を描いたものがありますが、こういった形で現実にある場所をVRの中に持っていくこともできます。

私がVRの中で描いた絵はホロレンズという別のデバイスを利用しています。VRはバーチャルリアリティ、MRはミックスドリアリティ、現実とのミックスという感じなのですが、眼鏡のような透明なディスプレイになっていて、現実の世界をみながら空間にいることができます。これはMicrosoftが作っているデバイスです。

私のコントローラーはhighlightを使っていて、ゴーグルだけ買い替えているので計算できませんが、パソコンは少し高いものを使っているのでトータルで40万円くらいだと思います。これは大人の仕事道具としてはそれほどに高額ではないと思います。私はより良い物を使いたいと思って、今こういう物を使っていますが、興味があってやってみたいと思った人は、まずOculus Quest2から入るのがいいと思います。

NFTというデジタルデータの新しい仕組みとアート作品の価値

NFTというデジタルデータの価値を評価し販売する新しい仕組みがあります。ブロックチェーン技術をつかったデジタルトークンで、データが間違いなく本物であることや、所有者は誰なのかが明確に分かるような形ができて、そこに価値が生まれるようになりました。

そこで私のVRアート作品を1300万円で落札していただきましたが、海外の事例だと落札価格が何億になることもあります。私はこれが一過性の物珍しいバブルではないと考えています。

パフォーマンスを通してVRアートそのもの自体の楽しさを伝えていくということ

VRはこの中に無限の可能性が広がっているのにも関わらず、まだまだ伝わりにくい部分も多いです。ですからライブペイントを通じて、ショーとしても楽しんでいただく活動もしています。

そう考えているのは私だけじゃなく、チーム全体で意識が非常に強いです。

これまで海外では10カ国ほどでライブペイントをしました。そこではまるで魔法のように空間にアートが広げていきます。

どこの国でもリアクションがとても良いです。これは人間に響く、とても可能性があるものだと確信しています。私は純粋に VR空間が広がる世界が人類にとって良い影響があると考えています。

移り変わりの早い世の中だからこそVRに興味があったら行動してみよう

私が一番残念だと思うのは、興味はあるのにお金を貯めて買えるまで我慢しようと思っている人です。その期間がとてももったいないと思うので、まずはレンタルしてすぐ表現してみることをお勧めします。移り変わりの早い世の中だからこそ、興味を持ったら積極的にやってみてください。そこでまた発見があるし、いろいろな可能性も広がります。

私たちのような若手のクリエイターは一歩踏み出してみるとそこに成功や失敗や学びなど、いろいろあります。一歩進んでみることが大事だと思っています。現在コロナ渦で体験できる施設が減ってしまっていますが、体験できる場を探してみてください。

最近いろいろなメディアに出させていただいています。先日『マツコ会議』に出演することを報告しましたら、みなさんから「おめでとう!頑張ってね!」とリアクションがたくさんあり、改めてとても人気の番組に出演させていただいたことを実感しました。

 

全く知らない人に届けるという部分では、テレビに出られるということは、とても素敵なことです。私のような、視覚で表現するアートは、まず知っていただいてからがスタートです。本当にメディアに出させていただくことは光栄なことだと思っています。

VRの可能性があると信じて、批判を恐れずに進むこと

中学生の時はいじめられっ子でした。当時は住んでいる世界が狭かんたんです。生きている意味が感じられませんでした。閉じ込められたり、水をかけられたり、帰りに物がなくなっていたりして、それによってどんどん萎縮してしまって次第に喋れなくなり、ガリガリに痩せていきました。

そんな時たまたま演劇体験に参加しました。その時初めて、自分が表現したことで人が楽しんでくれることの幸せに気づきました。そこから人を楽しませるにはお芝居やダンス、音楽もあった方がいいと思い、アイドルとしていろいろな表現方法を学び、ステージを経験しました。

普通にアイドルをやっていてもテレビには出ることはできません。自分で進んで広めていかなくてはと思い、その当時YouTubeやニコニコ動画、UstreamやStickamで動画投稿やライブ配信を行いました。まだYouTubeに広告システムがない時です。

15年ほど前にはブログを書いていたこともあります。まだ今のようにブログを書いているタレントも少なく、あまり世間に知られていない時期だったことあり「あいみって、日記公開して書いてるの?」とも言われました。でも高校生の時に、そうやって発信していたことで私の舞台を観に来てくださる方もいました。

そういった経験があるので、VRアートをはじめた当初は批判する人もいましたが、成功の可能性信じていましたし、周りの批判的な言葉を気にしないようにしました。

他人と比べて狭い視野で物事を考えてしまうのは可能性を否定することになります

以前は、やってみたいと思ったことを成功させること自体がなかなか難しい時代でした。現在のようにすぐに調べて、勉強したい方向に進むということがなかなかできませんでした。ですが今は、新しい世界に繋がっています。

気になることがあったらすぐに行動して、確認してみる。もしそれが自分にとって重要なことであれば諦めず、チャレンジしていきます。それを突き詰めて行けば自分だけの色を出すことに繋がっていくと思います。

とにかく私はどんどん挑戦していくことが大事だと思っています。

学生が学ぶということもこれからはますます変化していく時代になっていくでしょう。学びながら在学中にプロになっていくことももっと可能になると考えられます。それと同時に卒業しても学び続ける時代です。

 

私も10年後、今の自分には想像もつかないことをやっているかもしれません。これからもいろいろなことを学び続けないといけないと考えています。

私がNFTやVRアートといったジャンルに、他の人よりも先に踏み出していることで優位性があるのは事実です。それは行動力を大事にしている結果なのです。もちろん他人よりいいち早く取り組めば優位になるとは限りません。しかし早く着手した分、他の人より努力する時間が伸ばせます。

なので、少しでも気になったことには足を運んで実際に体験したりその場にいき観察したりします。そうした行動から産まれた人との出会いは、誰もが見ることのできるインターネットの記事を見ていることよりも、はるかに得るものがあるのも事実です。

作品をSNSで発表して世界と繋がってみることも大事です。

現在、海外からお仕事をいただくのは、ほぼSNSからです。

好きな作品を制作してSNSで発表している人は、「これ、出品すのはちょっと…」と躊躇してしまいがちです。私もその一人でした。完璧にできたと思っていても、次の日に見たら「ここがちょっと荒い、作り直そうかな」と思ってしまいます。ところがその作品を友達に見せたら「こんなの見たことないから出してみたら」と、SNSに投稿を進められました。思い切って投稿すると、それがとても反応があたんです。それ以来、とにかく発信することに決めました。

今はマスコミに周知され、フォロワー数何百万人、などと出ていますが、私のInstagramのTwitterのフォロワー数は国際的に見たら、アーティストとして少ない方です。それでもでもわざわざ海外から自国のアーティストを呼ぶよりも、お金がかかるのに私を呼んでくだされるのは、フォロワー数ではなくて、 SNSの投稿の中身をしっかり見てくださっているからだと感じています。

若さは失敗が学びになるので、好きなことを選ぶことは良い選択です

これからはポータルなプロデュースがとても大事な時代だと考えています。  私はVRをはじめた時に「すごい、面白い、新しい」と言われた反面
「でもそれをどうやって仕事にしていくの?」
「そんなもの上手くいかないだろう」
「見た目を派手にして、その場だけのパフォーマンスの人で終わるでしょ」
などと言われました。

現代はよくわからないものが新たな職業になるし、逆に少し前に安泰と考えられていた仕事がどんどん崩れていく時代です。何の仕事を作っていくか、可能性はこれから自分たちで切り開いていくことではないかと思います。

これからどうなるか分からない時代だからこそ、やりたいことをやって、もし仮に失敗したとしてもそこには新しい発見や学びがあったと、おそらくコロナ渦になって多くの人が本能的に感じていることではないでしょうか。

若いときは失敗が学びになるので、好きなことを選ぶことは良い選択なのではないかなと思います。

本文構成:野水聖来/松田千夏

取材担当:宮澤葵/福島大樹

写真撮影:野水聖来

取材場所:東京コミュニケーションアート専門学校

(取材日時2021年7月25日)