『「レベルアップ」のゲームデザイン』
著者:Scott Rogers
出版:オライリー・ジャパン
2012年08月 発行
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『「レベルアップ」のゲームデザイン』
著者:Scott Rogers
出版:オライリー・ジャパン
2012年08月 発行
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ゲームデザイナーが作るのは「ゲーム」だと思い込んでいませんか? この本の著者、ゲームクリエイターScott Rogersは違う考えを持っていたようです。
「これ一冊でゲームデザインのすべてがわかる!」この本の帯にはこんな事が書いてあります。
私は現在ゲームプランナー科に所属しています。ゲームプランナーとは、簡単に言えばゲームの基礎を作る人です。ゲームをデザインする際、たくさんの要素を考えなければいけません。
ストーリーやシステムはもちろん、キャラクター同士の関係性やアイテムデザイン、さらにマーケティングや新しい価値の提示というプレイヤーが見えないところまで考えるのが仕事です。一冊ですべてがわかるなんて、大それたことを言ったなと思いました。
著者のScott Rogersは『ゴッド・オブ・ウォー』などを手がけた現役ゲームクリエイターです。長いキャリアで失敗しながら学んだことを、ゲーム業界の若手クリエイターに伝えたいから書いたそうです。
本が届き、まず驚いたのがその分厚さと分量です。絵はところどころ使われていますが、ほんとんど文による解説なので見た目以上にボリュームがあります。 気合を入れて読み始めて、感心しました。
本当にゲームに関する思いつく限りのすべてのテーマに触れていて、障害物のストレスとか、プレイヤーに敵キャラを嫌いになってもらおうとか、ゲームをただやっているだけじゃ絶対に目を向けない細い要素に、ゲーム開発者の目線から言及していて、豆知識や雑学がたくさん載ってる本を眺めているときのようなワクワクする感覚を味わいました。
さらにクリエイターの精神的健康やチーム制作の不満にも触れており、ゲームデザイナーの広辞苑だといっても過言ではない気がします。分厚さも含めて。
膨大な項目の中で特に私の印象に残っているのは、「ポーズ画面」です。(P192 ”リフレッシュできるポーズ画面”) ポーズ画面というのは、ゲームを中断してメニュー画面を開ける機能です。画面や音の設定や、ゲームによってはセーブとロードもできるプレイヤーの安息の地です。
この本ではポーズ画面の中のさらに「ポーズ」という動作についてなんと1ページも使ってアドバイスが書かれています。まずポーズをするタイミングはいつだろう?プレイヤーがスコアを確認する時、プレイに疲れた時、ゲームを終える時、トイレに行く時。ならポーズ画面はそれに最適化させないといけないし、プレイヤーのストレスにならないように工夫しないといけない…。こういうことを言っていました。
私はこの項目で、ああほんとにこの著者はゲームを考えるのが好きで、そしてそれ以上にゲームプレイヤーのことを考えるのが好きなんだなあと思いました。 ゲームが内包している全ての要素には、一見なんでもないようなものでも必ず意図があるということです。
最終的に3日ほどかけて一周を読み終えました。感想としては、ほとんど覚えていない、という感じでした。 なにしろ情報量が膨大で、項目は多岐に渡っているので、一周読んだぐらいじゃすべて吸収するのは難しいですね。
しかし、不思議と読むのは全く苦ではありませんでした。 自分でも気づかないうちに、ふーんそうなんだー、あー次面白そうだな、ふーんそうなんだー、あー…。という好奇心のループに誘い込まれました。本書にも応用されているテクニックによって、なるほどこれがゲームデザインか、と納得させられました。著者のゲームクリエイターとしての腕は確かなようです。
そして先ほど本書をゲームデザイナーの広辞苑のようだと言いましたが、誰かにアドバイスを聞きたいことをいつでも調べることのできる、辞典というよりかはゲームの先生のようだと思いました。
読み進めるうちに、登場する膨大な項目全てに共通していることを一つ見つけました。 必ず「遊んでくれる人」のことを考えているということです。 ゲームオーバーについて言及しているページがあります。(P277~279 ”死……なんのためにあるのか?”)そこにこんな言葉がありました。
”あなたがするべきことは、プレイヤーを遊び続けさせることだ。”
ゲームデザイナーが作るのは「ゲーム」ではなく、「ゲームプレイヤーの体験」だ。私は本書から、そんなメッセージを受け取りました。
本書はゲームクリエイター向けに書かれた本なので、ゲームロジックに興味のない人は楽しめないかもしれません。簡単な言葉で書かれていますが、専門性は高いです。
しかし、本書を読んだ後のゲームプレイ体験は全く新しいものになると断言できます。まるでFPS(一人称視点シューティング)からTPS(三人称視点シューティング)に変わったかのように。
私たちの生活に溶け込みつつあるゲームを、新しい視点から見てみたいと思う方は、本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。
ゲームプランナー専攻 1年 河本ワダチ