バーチャルリアリティを夏の“あの代表作”から考えてみる

野水聖来

夏になると、ふと見たくなる映画がある。2009年8月1日にマッドハウスが制作した細田守の『サマーウォーズ』である。

初めて見たあの時の衝撃は忘れられない。キャラも作画もさることながら、何よりあの頃の私にとっては未知なる世界だったからだ。作中では、「OZ (オズ)」と呼ばれるネットワークを利用した架空の世界が登場する。人々はOZの世界に自身のアバターを用意してショッピングはもちろん、カジノや格闘技など、様々なことを楽しむことができる。さらに、このOZのシステムは交通網、医療などにも使われているらしい描写もあることから、普段の生活においても重要な役割を担っていることがわかる。OZの世界は携帯電話(公開された2009年はiphone3GSが発売された年だ)やパソコンだけでなく、ゲーム機からのアクセスも可能である。

現在、この光景は何ら違和感のないことなのかもしれない。だが、これが公開された当時では、まだまだ夢の話だったように感じる。実際、今ではスマートフォンの普及率は98%という数字だが、映画が公開された翌年の2010時点では10%未満だった。(※1)『サマーウォーズ』の作中でも登場人物の多くはガラケーを用いており、スマートフォンを手にしている人物は極端に少ない。

そして2021年夏、細田守作品の最新作としてスタジオ地図から『竜とそばかすの姫』が公開された。サマーウォーズから約12年。その間に、現代においてもネットワークの普及や技術のデジタル化など様々な面において発展していった。『竜とそばかすの姫』の世界では、それらも踏まえたうえで、さらに現代よりも発展した秘術が描かれている。

この作品では「U(ユー)」と呼ばれるインターネット上の仮想世界が登場し、その利用者は世界で50億人以上が集うと言われている。Uでは「As(アズ)という自分の分身が代わりにUの世界で動いてくれる。ここまでは『サマーウォーズ』とほとんど同じだが、Uの世界では視覚情報や四肢の感覚までも共有することができるのが特徴だ。さらに、ユーザーの思考を読み取る事でアバターが行動をとることも可能である。実際、作品の中で主人公が額をぶつけたことで、Asの額も赤くなっている描写がある。今作で現代では視覚情報や四肢の感覚など、今はまだ実現できていない新しい技術が描かれた。それによって、サマーウォーズを初めて見たときと同じような衝撃を受けたのだ。

今までも小説や映画、アニメなどといったエンタメ的なところで多くの“現代ではありえない”技術や機器などが登場してきた。その度に私たちはその新しい可能性に憧れや好奇心を抱いてきた。そして近年、現実の世界でも技術の発展が進むにつれて作品の中の出来事を可能にすることも不可能ではないことを証明している。バーチャルリアリティは多くの人にとっての可能性の塊なのかもしれない。

(野水聖来)