『「ゲーム犯罪と子どもたち」~ハーバード大学医学部の大規模調査より~』

『「ゲーム犯罪と子どもたち」~ハーバード大学医学部の大規模調査より~』

著者:ローレンス・カトナー博士/シェリル・K・オルソン博士 共著

出版社:インプレスジャパン

発行:2009年6月1日

二〇〇四年、ハーバード大学の学術研究として、『ゲームは一般的に言われているほど悪いものなのか』を問う研究が始まった。

医学、心理学、社会政策などといったさまざまな分野の研究者を集め、アメリカ司法省から研究助成金を取得するなど、研究期間二年を費やした記録をまとめたのが本書だ。

ゲームに対しての“興味”のない私がこの分厚く難しそうな本書を読み上げるまでに至った原動力が“興味”であった。 事実のみを述べているだけあって、活字で感じるドキュメンタリーのようで興味を掻きたてられたのだ。  本書でいう暴力的なゲームとは、流血表現が多く、性や人種差別ととれる言動が見られるゲームのことを指している。 本書で挙げられているのが、『グランド・セフト・オート』がそれにあたる。

『グランド・セフト・オート』シリーズは、主人公を操作しゲーム内の架空の街を自由に動き回り、ミッションを遂行していく。 さまざまな乗り物に乗ることができ、犯罪行為から人命救助、ピザ配達まで多彩なミッションをこなしていくゲームだ。 このゲームは一七歳以上を対象としたM指定となっているが、中学生を対象とした調査ではほかのどのゲームよりも、男の子では最も人気が高く、驚くべきことに女の子では2位であった。

しかも、男の子たちが指摘していたのと同じ要素に女の子は魅力を感じていたのだ。  その魅力とは、決して暴力のみにあるのではなく、『好き勝手動き回れる環境』にあるという意見が大半だった。  多数の子どもたちとその親へのアンケートやインタビューによる調査結果は数字にも出ているようで、ゲームの人気と現実世界の青少年の暴力は「反比例」している。 校内暴力も減少し、一九九四年から二〇〇一年までに加重暴力は四四%減り、暴力犯罪における青少年の逮捕者の割合は一九八三年以来最低となっている。

現に、過去に起きた学校銃撃犯のうち、暴力的なゲームに興味をもっていたのは八人に一人にすぎなかったのだ。  しかしその一方である問題も出てきている。 いじめによる報告件数が増えてきていることから、暴力事件よりもむしろいじめなどの問題行動に結びついていることがわかった。  こういったように、本書では新たな問題提起が生まれ、さらなる研究が必要であると記されている。 本書は一~九章で構成されているのだが、章ごとに本が作れるくらいどの章にも興味深いタイトルがつけられているため、気になる章から読んでみるのも面白いと思う。

第九章『保護者が子どもにできること』では、ティーンエジャー(十代の少年少女)たちは、どういった内容のゲームは親から許しを得ないか理解している発言が記されていた。 また面白いのが、弟や妹に暴力的なゲームをさせるか聞くと、彼らの両親が懸念する点と同じ点を気にかけていたのだ。 親たちのメッセージが伝わっている様子が垣間見える、おすすめしたい章だ。

この研究は以前までの研究方法とは異なるため従来の固定概念を払拭するかたちとなっている。 政治的・社会的計画も無ければ、既得権益もない研究者たちが純粋に子どもたちと向き合った研究結果という点が、私は本書が好きな理由の一つである。 最後にそれが分かる一文を本文から抜粋させてもらいたい。 『研究者として、私たちは単にデータが導く方向に進んだにすぎない』

ノベル&シナリオ専攻 2年 松田 千夏