サイトウ・アキヒロ
任天堂はなぜここまで大きなゲーム会社に成長できたと思いますか。
実は、日本のゲームが何故世界で売れたのかということを、任天堂自身もよく知りません。山内社長のときも、新年の挨拶で「わが社がここまで来たのは運だから」と言っていました。山内社長もよくわかってないです。なんでだって、任天堂のゲームはマーケティング0ですからね。
『Nintendo Switch』もマーケティング0ですよ。京都の片田舎で自分たちの信じるもの作っているだけなのに世界で売れている訳です。だから任天堂も売れている理由を知らないんです。
私はファミコンを発売した頃からずっと見ていますが、京都特有のものづくりが売れている要因の一つなのではないかと考えました。詳しくはゲームニクスの本に書いていますが、ユーザーのことを考えるおもてなしの心が世界にウケたということだと思います。
任天堂のゲームはなぜ世界に認められるようになったのでしょうか。
京都のおもてなしのノウハウです。
ユーザーが何か行動してくれたら、ゲームは必ず結果を返してきます。視点を変えれば、ユーザーが何かしてくれなければ、我々は何もできないということです。ボタンを押すなり、方向キーを入れるなりしてくれないと、こちらはなにもする術がないです。いかにボタンを押したくなるか、いかに方向キーを入れたくなるか、いかに物語を先に進めたくなるか。そういうおもてなしのノウハウを持っていたのが、たまたま、非常にたまたま京都の任天堂でした。
おもてなしというのは相手に気づかれたら負けですから。気づかれた時点で押しつけになりますので、いかに気づかれないようそっとおもてなしするかが重要です。ヘルプの仕方であるとか、ストーリーの進め方であるとかを、巧妙に隠しながらユーザーに学習させます。例えば最初の敵は簡単にやっつけられてご褒美を多くしてあげようとか。そういう点で任天堂のゲームというのは非常によく出来ています。
その頃のアメリカとかヨーロッパのゲームは「洋ゲー」といって、ユーザーに不親切なゲームが多かったです。『ウィザードリィ』という洋ゲーは、『ドラゴンクエスト』みたいなロールプレイングゲームですが、ゲーム開始時、いきなり荒野に一人立っているんです。何をしたらいいのかさっぱりわかりません。で、五歩くらい歩くといきなりボス級のキャラが出てきたりする訳ですよ。何が何だかわからないじゃないですか。それが当時の洋ゲーでした。解決手段を考えるのもゲームのうちだったんです。
しかし任天堂製ゲームの序盤は、まず簡単な敵しか出てこない上に、最初に何をすればいいかゆっくり理解できるように作られていました。ユーザーにとことん親切だった。やはりそこが任天堂の一番の強みであると感じます。
『ゲームについて』
ゲームというメディアが持つ、他のメディアとは違う特徴とはなんでしょうか。
ゲームというのはインタラクティブなメディアです。
映画や音楽でも小説でもなんでもそうですけど、大抵はリニアなメディアです。クリエイターが一方的に発信して受け手側が受け取るだけです。でもゲームの場合はユーザーが主人公になるわけですよ。映画や音楽って全部主人公は向こう側にいる訳です。そしてその主人公なり歌手に自分の感情を重ねられれば、その作品に、その歌に、のめり込めるしファンになれます。しかし皆さんにもよくわかんない歌手とかいると思いますが、それは要するに感情が重ねられないからですよね。それがリニアなメディアです。
ゲームは、主人公は向こう側にいますが、ユーザーが主人公なんです。そこがゲームの一番の特徴です。
ゲーム、そしてゲームニクスの登場で、今の作品は昔と比べどのように変化してきていますでしょうか。
最初に認識していただきたいのはインタラクティブであるか、リニアであるかということです。リニアなメディアといわれているものには、ゲームニクスは関与しづらいです。
新海誠さんのコミックスウェーブで作っている彼の映画がなぜヒットしているかというお話をしましょう。新海誠さんが作るアニメ映画は中身がスカスカな部分があります。これは別に批難しているわけではありません。スカスカなところに見ているユーザーが参加できる領域があるのです。自分の感情を入れる隙がいっぱいあるわけです。宮崎駿さんの映画が良い例です。昔からちゃんとしたアニメ映画は、とにかく世界観から何から、小道具までもみっちり作り込んできました。みっちり作り込んだ濃厚なものを提供するのがクリエイターだと思っていました。
でもこのゲーム世代になってくるとインタラクティブなメディアに完全に子供の頃から触れてきているわけです。自分が主人公。映画は自分が参加することによってその世界を堪能するというメディアになってきています。今の世代に濃厚な映画は辛いところがあると思います。
リニアなメディアである映画でも、作り手がインタラクティブなゲームの世界にずっと浸ってきているので、自然と作るものがスカスカになっています。今の世代のユーザーと作り手が、作品に参加できる場所を欲しがるようになったのは、ゲームの影響が大きいと感じています。
ゲームを作るとはどういうことでしょうか。
ゲームはクリエイターのクリエイティブな行為ではありません。よくゲームデザインをやりたいという人が、僕の世界観で勝負したいですとかいうこともありますけど、それは間違い。あなたの作品なんてゲームを遊ぶ人は欲しくありません。主役は自分だからです。
そしてゲームは作品ではなく製品です。製品の役割というのはお客さんが楽しむ環境を提供するだけです。ユーザーが主人公ですから、クリエイターのクリエイティブの押しつけは嫌がります。そういう意味で言うと、インタラクティブなゲームというのはユーザーが主役ですので、主役がいかに気持ちいいか、主役が作品に入っていただくにはどうしたらいいかという環境を作るのがゲームクリエイターです。
よくゲームデザインを考えてくださいというと、こんな敵が出てきて、こんな技を仕掛けてきて、こんな障害があってっていうことを考えていきますけども、それは間違いです。
なぜゲームは楽しいか?ということをもっと追及するべきです。
なぜゲームは楽しいのでしょうか。
一言でいうと、褒められるからです。
ゲームニクスの本にも書いてあることですが、ゲームというのはストレスの塊です。だって、常に敵をよけろ弾をよけろ、あれを取ってきてこれをしろ、色を揃えろ、あれしろこれしろそれしろって、ずーっと指示し続けているのがゲームですよ。普通嫌じゃないですかそんなの。
でもなんでやりたくなるのかというと、その障害を乗り越えた先に必ずご褒美があるからです。そのご褒美が欲しくて、次の障害をくれといっている。そんなすごく歪んだ心理がゲームなんですよね。ということはゲームデザインをするという行為は、どんなご褒美をどうやってあげるのかを考えることです。少なくとも障害と褒めることをセットで考えないといけません。ゲームクリエイターの皆さんは褒めることを忘れがちです。
つまり、ゲームに夢中になっているのは、皆さんが褒められたいからです。よくやったね頑張ったね、ご褒美にこれあげるよ、苦労した甲斐があったね、というのがゲームです。それがゲームの楽しさです。
最近グラフィックが大幅に強化された次世代ゲーム機、「PlayStation 5」が発売されました。ゲームは今現在も進化し続けていますが、なぜよりリアルを追求するのでしょうか。
ソニーのPlayStationの思考はずっと一緒です。「より細かく、よりリアルに」ということです。細かくは具体的にいうと、ポリゴン数を多くし、いかに高速に大量の情報を回していくかということですが、それはPlayStation3ぐらいですでに達成しています。
ゲームの大きなマーケットはアメリカです。アメリカにおいてはリアルであることがものすごく重要です。アメリカの映画でCGが発達しましたね。なぜでしょうか。これを明確に答えられる人は多くはないでしょう。それが、PlayStationが更にもっとリアルになっていく思考性で進化している理由でもあります。
なぜアメリカの映画がリアルなCGに発展していったのか。それはアメリカが多民族国家で、他宗教の国だからです。ハリウッド映画がなぜあれだけ売れているかというと、アメリカという国自体が世界だからです。
あらゆる宗教と民族がアメリカにはいるので、全ての民族のOKのスタンプが押されたものが世界に発信されます。単なるゴールドラッシュの作業服だったものが、全民族のスタンプを押され世界に発信されるとカッコいいジーンズというものになる。ハワイ原住民の波乗り遊びが、アメリカに持っていかれて、OKスタンプを押されるとサーフィンというカッコいいものになって発信されるみたいに。
アメリカという国は世界の縮図みたいな場所です。全ての民族のOKが出されたものが集まる国です。
しかしありとあらゆる文化は独自の価値観を持っています。「リアル」は全世界共通の表現でした。アメリカにはいろんな文化、価値観を持った人たちがいるので、全員が納得のいく表現といったら「リアル」しかないです。アメリカでゲームを売ろうとすると「リアル」であることがとても重要な表現になるということですね。
PlayStationはアメリカ市場が大きいので、ソニーコンピュータエンターテインメントで国内を閉じてアメリカへ行きました。ソニーはアメリカの会社です。PlayStation4ぐらいで、既に日本のリアルなクリエイティブの限界が来ていて、それはアメリカじゃないとわからないということで、社長もすべてアメリカ人になって、ゲーム市場としては現在も非常に大きなマーケットを取っている。以上が、PlayStationがリアルな方向に成長を続ける理由です。