ヨコオタロウ

プロフィール 横尾 太郎(よこお たろう、1970年6月6日 - )は、日本のゲームクリエイター。愛知県名古屋市出身。「ヨコオタロウ」というカタカナ名義でも活動している。また英語表記の際には一般的な名・姓の順ではなく、大文字でそのまま「YOKO TARO」としている。 1994年に神戸芸術工科大学を卒業し、その後株式会社ナムコへ入社。1999年には株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントに所属しデザイナーとして活動していたが、上司とそりが合わず退社。2001年に株式会社キャビアへ席を移し、『ドラッグオンドラグーン』や『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』のディレクションに当たる。 2010年末にキャビアを退社することを表明し、翌年からは無職を自称しながらフリーで活動していたが、2015年4月1日に株式会社ブッコロを立ち上げ代表取締役に就任。2017年に『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の続編となる作品『ニーア オートマタ』をリリースした。

『ドラッグオンドラグーン』シリーズや『ニーア オートマタ』をはじめとした『ニーア』シリーズのシナリオをご担当されているディレクターとして知られ、漫画や小説に舞台の監修など様々コンテンツを手掛けていらっしゃるヨコオタロウ氏。 ゲーム業界では陰鬱で深淵な世界観に鋭く壮大なテーマが混ぜ込まれた独特な作風で既存のRPG観を塗り替えて話題をさらい多くのファンを虜にしている。現在も超多忙なゲームクリエーターのひとりだ。さて人気ゲームクリエーターはどんなこと考えているのか、濃密な取材に忌憚なくお応えくださった言葉の端々にヨコオタロウ氏の魅力がいっぱい詰まっている。

『シナリオについて』

 ヨコオタロウ様のゲームを通じて達成感とともに余韻に浸れる満足度は他に見ません。加えてシナリオは他に見ない陰鬱な展開を感じることが多々ありますが。そこでシナリオを考えるうえで、これだけは外せないこだわりやセオリー、またネガティブな表現をする場合の苦心点などがありましたらお聞きしたいです。

 シナリオというのは、簡単にいうと怖がらせたり楽しませたりするという道具の一つです。ただ、教科書を読んで「これなら感動するでしょう」というセオリーだけで作ることは難しいと思います。まずは、自分自身が感情移入できることがシナリオを書く上で一番大事で、そういう意味では嘘をつかないようにすることはかなり大事なポイントだと思っています。

 自分の場合、お客様であるゲームプレイヤーの対象が全年齢なので、あまりめちゃくちゃな表現は使えません。ただ今ある表現の中で嘘のないゲームであること、子ども向けだからと言って、自分が思っていないことを書かないことが大事だと思います。

 もうひとつあるのは、ゲームはエンターテイメントなのでいずれ飽きられてしまう、ということです。同じシナリオは何度も読めない、小説も同じです。1回目の感想が一番衝撃的であり、10回も読めばだんだんと感動は擦り切れてしまうことが普通です。そういう意味では、いろいろな表現とかやり方というのは常に古びていく運命にあります。

 もし世界に一番素晴らしい表現が永遠に使われるとしたら、シェイクスピア が今でも若い子に読まれるはずです。でも表現は使い古されていくので、昔の表現はもう使われなくなる。だから、考えを固定させるような「自分なりの思想や論理」を極力持たないようにするようにやっています。また今まで考えていたこととなるべく違うことを考えようと自分自身に言い聞かせて、自分のことを信用しないようにしています。

 ネガティブな表現を通すことについては自分自身ではあまり苦心はしていません。ゲーム会社にはゲームをチェックする倫理担当の部署があります。その部署とやりとりをして「この表現は使えない」と言われるものが出てきます。

 そのとき、思っていることが二つあります。ひとつは、人が死ぬような残酷な表現を書いたとき、私が「倫理担当さんに言われたからやめよう」と折れてしまうと、どんどん世界がマイルドになっていくというか、表現の幅が狭くなってしまうと考えています。だから、倫理担当さんから言われても、極力通すように努力をしているつもりです。

 一方で、お客様にはいろいろな方がいらっしゃるので、じゃあどうしたら受け入れられるだろう、という点です。倫理担当さんが言っていることを満たした上で、なんとかエンタメとして成立させられないか、テーマ性も入らないか、と考えたりすることが苦心している点です。