ヨコオタロウ

『共通質問』

 ヨコオタロウ様にとって思い出のゲームはなんですか。

 ゲーム業界に入るきっかけになったゲームは『グラディウス』です。当時ゲームセンターでは『インベーダー』のように同じ画面が繰り返されるゲームがほとんどでした。今で言うと『パズドラ』のパズルの盤面がずっと続くような感じです。そこには物語や展開が特にありません。しかし『グラディウス』の頃から、突然ゲームのグラフィックが綺麗になりました。ステージごとに森や、浮遊大陸、ボス戦といった特徴が生まれ、そこからドラマ性ができてきた。それを体験したときに「これからはビデオゲームだ。コンピューターで作られているからどんどん進化していくに決まっているから、今これができるなら、いずれ映画の表現が置き換わってしまうぞ」と思い、衝撃を受けました。

 テレビとか新聞とか小説とか終わりだと思って、ゲーム業界に入ろうと思ったのはそのゲームを見たことがきっかけでした。ですが未だにゲームは映画にはなれてなく、その予想は早過ぎました、失敗だと思いますね(笑)

 ゲームから影響を受けたことはなんですか。

 ゲーム作りがほぼ人生なので、「ゲームから影響を受けたことといえば人生そのものです」という回答でしょうか。ただ、「感動しました」とか「人生の努力を学びました」みたいな美しい影響はゼロで、下世話で欲望に満ちたメディアだと考えていています。ゲームに触れてしまったことで、欲望の泥沼の中で生きていると感じています。素敵で良いものと言うより、知ってしまったから抜け出せない麻薬みたいなもので、人生がゲーム業界に縛られている気がします。

 表現することは楽しいです。ゲームをプレイするよりも、作る方が楽しいと思っています。若い頃はゲームで遊んでいましたが、今は遊ばなくなりました。ゲーム業界は楽しいのでずっと続けてしまい、中々抜け出せないと思います。人間1回低いほうに流れると這い上がれない特性があります。ゲーム業界は楽しくて抜け出せない沼みたいな場所だと思っています。

 

 ヨコオタロウ様によってゲームはなんですか。

 私にとって、ゲームはメインの仕事です。先程もお話させていただきましたが、自分自身はゲームというメディアがいずれ消えると思っています。世の中にゲームが出てきたのが40年ぐらい前で、そこからゲームを作るということが商売となって、今も続いていますが、いつか消える。その消えてしまうまでの100年くらいの短い間に生まれてきたのはすごいラッキーだったなと思います。いずれ消えるものを作る虚しさが私は好きですね。

『今後の目標』

これからの目標はなんですか?

 今とりあえず作っているものが出ると良いと考えています。ゲームを世の中に出すのはすごく大変です。実際はユーザーからクソゲーだと言われているモノでも、私は「出せただけでもすごく偉いな」って思いますね。

 ゲーム作りは、作りたいと思っても作れなかったり、開発途中で挫折したりと本当にたくさんの障害があります。なので、まずは今作っているものを出すのが大事だと思っています。

 それ以上の未来のことは基本的に考えていません。小さい頃からゲームを作りたいと思っていて、ディレクターを初めてやったときにもう夢のようで、そこでゲーム業界のキャリアが終わってもいいなと思っていました。

 たまたま運が良くてその後もお仕事をいただいたのですが、基本的には毎回これで終わっていいと思いながら作っていて、未来のことは全く考えていないです。

 今は50歳で同じ歳の人たちと集まるとあと何本ゲームを作れるかという話になったりもします。私は別に何本でもいいし、これで終わってもいいかなといつも思っています。

『これから業界を目指す人へ』

 この業界を目指す人へ一言お願いします。

「30歳以上の人の言うことを聞くな」

 30歳以上の人の人が語る内容は、それまでの人生がいかに正しかったかのかを一生懸命説明するんですよ。人生が間違っていたと考えてしまうと精神が保たなくて、やっぱり人間は自分がやってきたことが正しかったと思いたいものなので。

 だからこれまでの過去を肯定すること、それを永遠に喋り続けるのが大体の大人です。でも、その人が「正しかった」と言っても、それは「とあるルートの一つ」でしかなくて、必ずしも唯一の正解ではない。他のルートもたくさんあるのに「自分のやり方が正しい」と言い切ったりするので、30歳以上の人の言うことは信用しなくて良いと思います。

「29歳以下の人の言うことを聞くな」

 逆に29歳以下の人は会社活動や製品を作った経験があまりにも少ないです。経験のない人の言うことは聞かなくていいです。

 つまり、結果的には「他人の言うことを一切聞かなくていい」と言うのが、最後に私がみなさんに伝えたいことです。それでは。