ヨコオタロウ

 ヨコオタロウ様はシナリオ以外にも漫画や小説に舞台等の監修で様々なコンテンツに携わっていますが、自身が書き分けている中でこれは書きやすいと思うものがあれば教えてください。また各メディアでのテーマなどがありましたらお聞かせください。

 私はゲームのディレクターがメインで、文章を書くディレクターとして存在しています。と言っても、ゲームで必要だから書き始めて今に至っているだけで、これまで一度も文学的な教育を受けていないし、小説の書き方を一度も学んだことはないです。

 そんな自分にとって、「脚本」は書きやすいメディアだと考えています。人が話した言葉でやりとりする話は割りと作りやすいからです。小説等ではセリフ以外にも「地の文」というのがあり、それはあまり得意ではありません。

『ゲームについて』

 ヨコオタロウ様は既存のジャンルにとらわれないゲーム作りをされていますが、将来ゲーム業界にどうなって欲しいと思われたりしますか。またこれからの時代にこんな作品像でありたいなどの抱負があれば教えていただけませんか。

 私はエンタメ業界にいて、その環境に適応していきたいです。どういう世界であれ、どういうゲーム業界であれ、そこでどうやったら商売できるかを考えるのが仕事と思っています。なので、あえて「こういう世界になってほしい」とか「こういう風にゲームはなってほしい」という気持ちは抱いていません。

 ただ「こうなるだろう」という予想は持っていて、私は「ビデオゲームはいずれなくなる」と思っています。今後、世界が全てゲームみたいになっていくので、ビデオゲームという固有の言葉は消失してしまう、という意味です。

 例えばソーシャルメディアで、“イイネ”を集めたりしている文化も、実際はゲーム的な部分が含まれています。そういうところがもっと拡大されて人々に浸透するのではないかと思っています。他にも、電車の切符一枚買うのも、今はお金を入れてボタンを押していますが、あれがもっと面白かったらいいのではないかとか、もっと快適だったらいいのにとか、そういうことをよく考えます。

 そうした要素がどんどん世の中に浸透していくと、人々が触れ合うデジタルの全てが面白くなっていき、結果的にゲームか消え、他のメディアと融合してしまうのではないかなと考えています。映画も今は椅子に座って観ているだけですが、自分が見たいところで右を向くとか、このキャラの足元はどうなっているのか確認するとか、そういうことがもしできるとしたら、もう一回観ようかなという気持ちになれると思います。

 つまり、ゲーム的な文化が世の中に浸透する結果、ゲームというものの名称がなくなる、という考えです。

 今回の取材のテーマである「ゲームとメディア」についての意見をお聞かせください。またPS5などの新世代ゲームが発売される中で新しいゲームについて、次世代とゲームとメディアについてどうお考えでしょうか。

 「次世代のゲームとメディア」というテーマついては、先程お話しした内容が答えなのかな、と。 なので、自分が考えているゲームと他のメディアの違いについてお話しようと思います。

 メディアというと、大半のみなさんは映画とか小説、テレビ、ラジオといったものを想像されると思いますが、メディアがそのメディアある理由、つまり「映画が映画である」「ラジオがラジオである」と定義される理由というのは、「物理的な制約に縛られている形」であり、それがメディアであると思っています。

 例えば、小説ではA4用紙1枚に書いたものを小説とは呼びません。出版社から出ている200ページぐらいある小さい字が詰まった本のことを「小説」と呼んで、それに挿絵が入りページ順序がバラバラで読めるものになってくると「雑誌」と呼ばれて、更にその絵に吹き出しがついて紙を閉じたものが「漫画」と呼ばれるものになります。

 一方で、ゲームには変わった特徴がひとつあります。それは「特定のメディアの形を持たない」という点です。テレビで流すゲームもあるし、紙で遊ぶゲームもあるし、時計で遊ぶゲームもある。形のない言葉だけでやりとりして遊ぶゲームもある。物理的なメディアの形を持たず、どちらかというと既存のメディアに寄生しているのかもしれません。他のメディアに寄生虫のようにべったりとくっついてそのシステムを使って、何ができるか。

 メディアが物理的なベースのシステムだとするとゲームはその上に乗っかるメタフォーマットとでも呼ぶべき、違う次元のシステムではないかと思います。今回のテーマである、「ゲームとメディア」の関係性について、個人的には「ゲームは物理メディアの形を持たない、別の『作法』のようなもの」に近いのではないかと考えています。

 あとは、次世代機についてですか。正直にいうと毎回このタイプの質問いただくのですが、「わからない」というのが回答です。みなさんが思っているよりもゲーム開発者は次のハードウェアの情報を知らないことが多いですよね。もちろんソニーの中にいてPS5のハードウェアの開発の担当している人はわかっていると思うのですが、サードパーティーでゲーム開発するときも、完成したハードウェアが届くのは開発の最後なのです。

 むしろPS5についてはこれを読んでいる皆さんの方が詳しい気がします。自分はまだPS5の抽選当たっていないので、発売されても買えない可能性があるんですよね。

 ヨコオタロウ様がプライベートで好きなゲームジャンルはありますでしょうか。

 二つありまして、ひとつは縦スクロールのシューティング。ですが、ほとんど全てのテレビが横画面になってしまったので縦に流れてくるシューティングゲームはなくなってしまい、寂しい気持ちがあります。昔のゲームセンターはモニターを縦に置いていて、そのときに縦でスクロールするシューティングゲームが流行りました。そこからゲームを好きになったので、今でも縦画面のシューティングゲームはすごく好きです。

 もうひとつはピンボールで、デジタルのピンボールが好きです。PCやSwitchで何本か出ています。家でプレイしますが、画面の動きもなく、できることは二つのフリップをパタパタするだけ。今どきの人は全然やらないのですが、古き良き気持ちになれるのでよくやっています。

 ピンボールについては余談があります。ゲーム会社やIT企業で成功した会社の結構いい歳をした創業者がピンボール好きだったりすると、受付やロビーにピンボール台を置いてあったりもします。私が見る限り、ピンボール台を受付やロビーに置いた会社はその後ほとんど潰れていて、ピンボール台を置くのはよくないのではないか? という疑惑がありますね(笑)