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「ファミ通ならではの面白い仕掛けをしたい」

『週刊ファミ通』編集長
林 克彦

週刊ファミ通』編集長
1973年青森県生まれ。1994年より『週刊ファミ通』編集部に勤務。

◉週刊ファミ通 1986年に『ファミコン通信』として創刊。1995年より現在の正式名称となる。現在では国内で唯一のゲーム系週刊誌として『株式会社Gzブレイン』より毎週木曜日に発売されている。 
●URL https://enterbrain.co.jp/weeklyfamitsu
https;//famitsu.com

◉株式会社 Gzブレイン 2017年7月3日に設立された。『週刊ファミ通』をはじめとした雑誌や、WEBサイトの運営や動画番組の配信など、ゲームに特化したコンテンツ事業を展開している。
●URL https://gzbrain.jp 

・物事を成し遂げてきたクリエーターは 年齢に関係なくずっとカッコいいなと思う

 私は元々プロレスが好きで、編集者を志したときはプロレスに関する記事を書きたいと思っていました。そこで高校卒業後に、出身の青森から上京をして日本ジャーナリスト専門学校に入学しました。

 卒業後、新聞社に入社してプロレスの記者として仕事をしていたのですが、その会社が倒産してしまったんです。そのあと、週刊ファミ通にアルバイトとして入りました。プロレスに関した仕事ではなくなってしまいましたが、ゲームもプロレスと同じくらい好きでしたし、編集者志望だったので結果的にはよかったと思っています。

 ファミ通編集部に入った当初、前の職場とのギャップを少し感じて驚いたこともあります。たとえば、新聞や一般のマスコミは取材した先方への原稿を確認しないんです。つまり取材してまとめた原稿を取材した先方に見せずに編集部内で精査して掲載するのですが、ゲーム業界だとメーカーにきちんと原稿確認を取ります。まったく文化が違うんだな、と思ったことを覚えています。

 やはり商品を掲載する以上、正しい情報を伝えなければいけませんし、ゲームの開発中に仕様が変更されたり、情報が更新されることが多々ありますので、メディアとメーカーの両者間で常に確認をしあっています。業界紙特有のものかもしれません。

 もう一つは、やはりクリエーターはとがっていて面白い方が多いですね。例えば、マリオの生みの親として知られる宮本茂さんやドラクエシリーズを作っておられる堀井雄二さん、METAL GEAR SOLIDシリーズを作られた小島秀夫さんといった50代から60代のクリエーターの方たちはとくに言動や所作を含めてカッコいいんですよね。芯が通っていてブレない。そして妥協をしない。妥協したとしても高いレベルで落としどころを作っているんだと思います。

 そして普段深くお付き合いをしている時でも、間違っていると思ったらしっかり指摘をさしたり、ディスカッションをしたりするんです。

 つまり、それだけ真剣に作品と向き合って、自分が作ったものを信じているんだと思います。そういうふうに、物事を成し遂げてきたクリエーターの方は年齢に関係なくずっとカッコいいなと思っていますし、カッコいい方たちに取材できるのは編集者冥利に尽きるな、と思っています。

・雑誌の質を上げていかなければ今の時代は生き残れないから

 『週刊ファミ通』の記事には大きく分けて2種類あります。ひとつはゲームの情報記事で、これは様々なメーカーと打ち合わせをしながら決めていきます。具体的には、メーカーさんから新作や新情報を提示していただき、発表時期や記事展開を話し合う、といった形です。それとは別に編集部の企画で作る特集記事というものがあります。

 その特集記事を組むための企画会議を定期的にやっています。その際に、どんなことに着目して企画を決めているかというと、たとえば夏休みでいうと、長期の休みに入るときに『週刊ファミ通』にどんな企画があったら読者に喜んでもらえるだろうか、ということを考えてます。これを具体的にいうと、夏休みに読者がやりたいゲームはどんなものだろうか、夏にゲームに関連したイベントはあるだろうか、といったように読者の関心や注目度が高いものや、時事ネタなどのその時期のニーズに即した特集を組めるかどうかを大切にしています。

 そして『週刊ファミ通』はゲーム雑誌なので、ゲームに紐付いていることがとても重要です。つまり、全く関係ないようなことをやっていても、根底にゲームの要素をいれていたり、あるゲームをテーマにして突拍子もない企画をやってみたりといったような感じです。このように週刊ファミ通はゲームをベースに受け皿がとても広い雑誌なので、その企画がゲームに紐付いていて、面白そうであればなんでもやってしまおうくらいの感覚でやっています。

 また、2017年の上半期には12週にわたってジャンル別総選挙という企画を掲載していたんですね。これはなにかというと、アクションゲームやロールプレイングなど各ジャンルごとに人気投票を行ってランキングを決めようという内容だったのですが、そもそもなぜこれをやったのかというと、実は4月から6月にかけてはあまりゲームが発売されないんです。そうなると新情報の発表や続報が少なくなり、必然的に本誌の内容が薄くなってしまい、雑誌としての売りがなくなってしまいます。

 つまりこういった企画を掲載していくことで、ゲームの情報記事と特集記事の2本柱になって雑誌の中身の濃度が濃くなります。そうすることで読者に喜ばれるものを届けることができるのではないかと思っています。

 近年は『ファミ通.com』でもゲーム情報を発信しています。web上では一般的に速報性が重視されます。雑誌は一番早いサイクルでも1週間に1冊のペースなので、例えば雑誌の発売日に出た情報は次の週まで掲載できません。しかしネットメディアなら、情報が出た時点ですぐに情報を届けることができます。これは情報のペースが速いゲーム業界では大きな強みです。

 雑誌とネットの一番の違いは何かというと、雑誌はお金を払っていただいて買ってもらう商品なんです。現在ファミ通は500円ほどの価格なんですが、500円を払ってもらえるだけの情報や特集を1週間とはいえ作り込んで届けることができること、これは雑誌の強みだと思っています。

 雑誌は独自の切り口で企画や考察を加えることで記事の質を高めていくことをがんばらないと、雑誌の市場規模が縮小している今の状況では生き残れないですから。そのためには、ページをめくったときについつい指を止めてしまうような記事を作ることを意識することがとても大事だと思っています。たとえばレイアウトでいうとゲーム中のキャラクターのイラストの大きさや配置をどうするか、キャッチフレーズをどういうふうに書くか、目を引いて興味をそそるようなページ作りにとても気を配っています。

 ただし、そこに関して私は担当編集者のそれぞれのセンスに任せているので、かなりレイアウトがバラバラなんです。そもそも、一口にゲームといっても様々なジャンルやテイストがありますから、それぞれの魅力や個性を最大限に伝えられるようなレイアウトにしようとするとどうしても統一性がとれません。

 しかし、そうしてバラエティに富んだ雑誌内容になることで読者が興味を持つポイントが増えているのかな、と思っています。

 とはいえ、紙媒体はページ数が決まっているので、メーカーからもらった資料や情報や、インタビューの内容などを、なんでもかんでも誌面に載せることはできません。また、誌面にたくさん情報を詰め込んでしまうと読みにくいものになってしまいます。

 たとえば、インタビューでいうと、言葉が足りなかったり、本筋から外れて雑談をしたりということがあるので、そのままインタビューを記事にしてしまうとインタビューを受けた人が本当に言いたいことが伝わりづらいものになってしまいます。ですので、パズルをするように発言した順序を入れ替えたり、ニュアンスを汲み取って言葉をわかりやすく変換したり、わかりにくくなるようなところは削ってしまったりして情報を整理して伝わりやすいものにすることも編集者の仕事です。

 インタビューを受けた人からも、むしろそうやって言いたかったことをきちんと汲み取ってまとめると喜ばれるんです。やはり読んでもらえなかったら、作っている意味がないですから、興味を持って読んでもらうというところに一番力を入れています。