丹羽 宇一郎

丹羽宇一郎先生は伊藤忠商社の会長職まで勤め上げた実業家で、同時にたいへんな読書家でも知られている。政治関係やビジネス書など数々の著作を執筆する中、2017年に『死ぬほど読書』という本を発表した。本の選び方から読書の意味まで記してある本だ。
丹羽先生の事務所に伺うと、読書の魅力ひいては人としての正しい生き方について語ってくれた。

本当の知識人は”自分はなにも知らない”ということを知っている人のことを指すんです。

自分のことは自分が一番気にしている。

「おすすめの本はありますか。本棚を見せてください。よくそんな質問をされます。しかし私は決まって、好きな本を読みなさいと返します。」

丹羽先生の実家は本屋さんだった。子供の頃から本に囲まれており、自然と手に取るようになったという。童話や漫画に始まり学術書、果ては成人向けの本にまで読んでいた。どれも商品なので、汚さないようきれいに読んでいたそうだ。

「仮に私がおすすめの本を紹介したとします。ですが、みんながみんな面白いと思うかどうかはわかりません。私が読んでいる本だから勉強になるだとか、この本を読んだら社長になれるだとか、そんなことはまずないでしょう。もしもそれで社長になれるというのなら、私が今まで読んできた本を全て読まなくては意味がありません」

丹羽先生は本に関しては、お金の心配をしない。京都で取り寄せた本が2万円することを請求書が来てから知った、ということもあったのだそうだ。読みたいと思ったのなら、惜しまずに買う。読書は誰のためにでもなく、自分が読みたいと思ったから読む。人のことを考えて読書をしてはいけない、と先生は語る。

「基本的にみなさんは人のことを気にしすぎる。自分が気にするほど、周りは自分のことを気にしてはいません。恋愛小説を読みたかったら恥ずかしがらずに読めばいい。この本読んだらかっこ悪いだとか、逆に私はこんな立派な本を読んでますよとか、そんなことは誰も気にかけていない。恥ずかしくてもこれを読みたい。それが本当の読書というものです」

読書は、時間と空間を超える。

「読書によって学ぶことはたくさんあります。……

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丹羽 宇一郎 -Niwa Uichiro-

1939年、愛知県生まれ。早稲田大学特命教授、伊藤忠商事名誉理事。62年、名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。98年に社長就任。約400億円の不良債権を一括処理するとともに、業績をV字回復させたことでも有名。2004年に会長就任。内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを経て10年に民間出身初の駐中国大使に就任。2015年6月、日朝友好協会会長に就任。近著に『日本をどのような国にするか-地球と世界の大問題』(岩波新書刊)がある。