島田 潤一郎

株式会社 夏葉社は吉祥寺に佇むひとり出版社だ。代表取締役の島田潤一郎さんは、晶文社から出版された『あしたから出版社』で知られている。
会社を尋ねると穏やかな雰囲気で迎えてくれた島田さん。島田さん自身がこれまで感じてきた、本に対する思いや本そのものの魅力について語ってくれた。

自分のことについて考える。そんなときに、本が寄り添ってくれればいいなと、そう思います。

「本は、シンプルに美しく」

大学を卒業してからはアルバイトをしながら、小説の執筆活動に専念していた島田潤一郎さん。28歳から31歳までの会社員生活を経て、2009年の8月、株式会社 夏葉社を立ち上げた。

——出版業界のいいところは、本当にフェアなところです。どんなに無名の作家の本でも、どんなに無名の出版社の本でも、書店員さんがいいと思ってくれれば、注文をしてくれるわけです。

これがもっとほかの業種になってくると、メーカーの発言力が強かったり、大手の欲しているものを優先されたりします。例えば、コンビニエンスストアに「パンをつくったから置いてくれ」と言っても、置いてくれるわけがありません。

しかし、出版業界ならばそれが可能なのです。私のつくった本が、いい本だと思ってもらえれば、紀伊國屋書店やジュンク堂書店などの大手の書店でも置いてくれるわけです。それが出版業界のすばらしいところだと思います。

株式会社 夏葉社のキャッチフレーズは「何度も、読み返せる本を。」だ。素朴であまり目立たないけれど、どこか心惹かれる本をつくりたいという思いから、このフレーズを掲げた。

——本はいくつか種類がありますけれども、1回読めばそれで事足りる本というのは、世の中にたくさんあります。昔ならいざ知らず、インターネットのあるこの時代ならば、そういったものはまとめ記事ひとつで用を成してしまいます。

私は、そんな内容を水増しして1冊の本にするようなことはしたくないと思っています。それよりも、薄くても、一見地味でもいいから、なにかいいなと思えるような本をつくっていきたいと考えています。 だいたいの出版社ですと、タイトルを大きくするだとか、帯ももっと主張して宣伝しなければいけないだとか。とにかく目立たせようとするのが常識ですが、私の美意識では、素朴な雰囲気の本の方が美しいと感じます。

帯も、当社から刊行している本はどれも、一言さっと書くようにしています。そうすれば一般的な本と一緒に並んだとき、相対的に目立つんです。……

続きは本誌もしくは電子書籍で

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島田 潤一郎 -Shimada Junichiro-

1976年高知県に生まれる。日本大学商学部会計学科卒業。 2009年9月に株式会社 夏葉社を設立。絶版になっていた書籍『借日の客』を復刊したところ、ピースの又吉直樹さんによって数々のメディアで紹介されたこととなり、脚光を浴びるようになった。
URL:http://natsuhasha.com/