篠原 慶丞

江東区大島に工場を構える有限会社篠原紙工。高い技術力ともの作りの精神を有し、2008年『第33回発明大賞』発明奨励賞を皮切りに、2018年『造本装幀コンクール』で上位2位をW受賞、アジア最大のデザインコンテスト『DFA Design for Asia Awards 2018』では銅賞を受賞している。数値やマニュアルだけにしばられない、柔軟で大胆な発想力と実行力で新しい「紙のコミュニケーション」を目指す篠原紙工。その代表取締役である篠原慶丞氏に製本に対する思いの数々を伺った。

製本の魅力と創造的未来

「仕事が楽しければその人の幸福度はあがる」

1974年5月に父が創業した会社「有限会社篠原紙工」。19歳のころアルバイトとして入社した篠原さんだったが、その当時家業のことを好きになれず継ぐ気は全くなかったと言う。だが25歳のころから製本業の良さに気づき、その考えを改め「もっと多くの人に製本の良さを知ってもらいたい」と思うようになった。

——製本会社の良いところを自分たちで作らなければいけないないと思いましたね。「やりがいのある仕事はなんだ、外から見た時に私たちがしていることで価値があると思われるようなこととはなんだ、世の中から求められていることとはなんだ」、いろいろ考えました。

例えば雑誌10,000部を1週間に1回刊行する。そのためのスケジュールがある。いかに効率よく仕事をするか、これを考えるのもすごく重要なことだけれど、せっかく加工や製本を実現する技術を持った人たちが集まっているのだから短納期で数をこなすことにこだわるよりむずかしいことやったほうが、社員もモチベーションがあがると思うのです。なにより自分がそうですから。

私は生きていく上で自分が幸福であると感じるような人生を歩みたいし、自分の周りの人にも幸福であってほしい。そういう人生を歩むために、働くことはとても大切だと思うんです。衣・食・住・家族・友だちと人生における重要なものの中に仕事も含まれていて、やはり仕事が楽しければその人の幸福度は必ず上がるものだと信じています。だからこそ、どこでもできる仕事というよりはここでしかできない仕事をしたいのです。そうすることで私が思う製本会社の価値というものに近づくような気がしますね。

本を物質として好きと述べる人が多い製本業界のなかで、篠原さんは、自分はそうでもないと首を横に振った。周りの人とは違う本に対する思い。製本会社の息子として生まれたがゆえの本への愛着のようなものがあると語ってくれた。

——私の父は中学を卒業後、独立をしてこの会社を創業しました。そして裸一貫、断裁機一台で会社を大きくし私たちを育ててくれました。……

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篠原 慶丞 -Shinohara Keisuke-

有限会社篠原紙工取締役。同時にバインディングディレクターとして印刷・製本・紙加工をデザインと製造の双方の視点から考察し、日々新たな本を生み出している。また、6社で結成した印刷連のリーダーや紙の可能性を追求する場Factory4Fの代表などを務めており、その活躍は幅広い。
URL:http:www.s-shiko.co.jp/