甲和焼 芝釜
小岩の町で扉を開いた先には、
陶器に溢れた上質な非日常でした。
――陶芸の制作期間
制作を始めてから焼きあがるまで、おおよそ2ヵ月かかります。
乾燥させて、素焼きして、本焼きしてと、工程を重ねると、最短でも1ヵ月半です。
秋の展覧会には、夏に作成したものを展示します。
――陶芸の流れを大まかに
まず、土を揉みます。土練りを経たら、ろくろで形をつくります。次に、高台削りと言って、裏側を削ります。そうすると器の形ができあがりますので、これをからからにします。
このあとに、模様を入れることもあります。生の状態と乾いた状態では、同じ大きさでろくろをひいても、水分が飛ぶので縮みます。からからに乾燥できましたら、750度ぐらいの低い温度の窯で、一度素焼きをします。素焼きでも縮むんです。生の状態と本焼きの状態では、およそ20%の開きがあります。
――縮むということ
縮むということは、土がぎゅっと固く締まることになります。焼き物としては上質です。
音を聞いて、キンキンキンキンと、ガラス質の音がするのは焼き締まっている証拠です。窯の場所によって焼き締まりが違います。たとえば端。ほかには窯の中の、上段より下段のほうが、焼き締まりが甘いのです。上下の段の差は1メートルもないくらいです。灯油の窯で、炎が立体に回っているために、上と下でエネルギーが違うのです。
――最初は土練りから
最初に土を揉みます。菊の花みたいな形になるから、「菊練り」と言います。少しずつ回して空気を押し出す。揉みがうまくできていないと、つくった物の中にある空気が、熱で膨張して、窯の中で破裂するのです。破裂すると周りの物も巻き込まれてしまいます。いちばん大事な作業とも言えます。
一般的には「土練り3年、ろくろ6年」と言われています。しっかり空気を抜いて、問題なく揉めるようになることが大事です。
写真は女性陶芸家の林 理子(あやこ)さまです。
――土練りを経て、ろくろへ。
まず、ろくろを引くための下準備があります。ろくろ台に置いただけの土は、中心がずれています。ろくろを引いて形にするには、土がきれいに丸くなってないとダメなのです。また、ろくろを引く前に土を揉んで空気を抜きましたが、それでも小さな空気が入っていたり、柔らかいところと固いところのムラがあったりもします。
まずは、濡らした手で回転する土を触り、しっかりと真ん中にします。これだけではなく、「土殺し」と言って上に伸ばし、倒しながら力をかけます。すると、空気が抜けるんです。
土殺しは、ろくろで土を高くしたり低くしたりを何度も繰り返すと徐々に、中心がしっかり取れて、土のムラがなくなり、空気が抜けるのです。土を置いてすぐには、ろくろは引けないので大事なことです。
――ろくろでの成形はあっという間
土殺しが終わりましたら、いよいよ皆さんのイメージなされるろくろです。作業はあっという間です。上から見ると、もっとあっという間かもしれない。だいたい1個つくるのに、3分くらいです。まっすぐ高さを出して、厚さを均一にしながら、かさを降ろします。糸を使って、高台の真下を切り取ります。この後、1ヵ月乾かします。乾燥するときに、中の水が溜まってると、下のところにひびが入る恐れがあります。また、中の水がなかなか、乾かないと、乾いたときにムラができるので、余分な水分はスポンジで拭きます。
――職人の手先
茶碗は、実はほとんど測らなくても、大きさはおおよそ同じにできます。誤差は2ミリ3ミリです。そのくらいで、みんなできてしまいます。最初の土で、これが1個分という風な感じです。自分の手で触ったときに、薬指で跡をつければもうちょっと少ない、という風に。
そうすると、直径が決まって高さを調節すれば、土の量が違うじゃないですか。それでつくれば、だいたい同じにできるのです。
――正しい陶芸を伝えたい
よく陶芸家の仕事ということでフューチャーされるのは、やはりろくろを引いている部分です。登り窯もそうです。窯を炊いて薪をくべて作業しているところだとか。すごいピンポイントな、見栄えのいいところしかなかなか取り上げられません。実はもっと地味な仕事もたくさんあります。
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