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Pick! 3 Work Stage_海野隆弘


広告や、商品のパッケージ。
日常生活には、デザインで溢れかえっている。
目まぐるしく動く社会のなかで、一体どれほどの人が
そのことに気が付いているのだろうか。
デザインを見ない日は1日たりともない。
意識しないとちょっとしたことさえ見過ごしてしまう。TCAのOBであり、在学中から江戸川区に在住しているグラフィックデザイナーの海野隆弘氏。
彼が創る日常に溶け込むデザインに焦点を当てた。

グラフィックデザイナー・海野隆弘氏


●グラフィックデザイナーになろうと思ったきっかけを教えてください



 もともとここの卒業生でグラフィックデザイン科のイラストデザインコースだったんです。入学当初はデザインの勉強はしていなくて、ただひたすらにコピックマーカーやブラシなどでイラストを描いてました。2年生になったころから授業でポスターなどのデザイン系のものを作らされるようになったんですよ。そういう意味では、やらされたというのが一番最初のきっかけです。
 それから卒業式のあと、就職が決まっていた友達が建築関係の学校に行きたいということで、代わりに行くよう頼まれたんですよね。それで面接を受けに行ったんですが、何故かすでにほとんど採用が決まっている状態で「今日から働いていく?」と言われ、「いや、今日は帰ります」と断ったところから、本格的に私のグラフィックデザイナーとしての道が始まりました。
 ただ、最初の方はパソコンすらまともに扱えませんでしたね。それこそ、スタートボタンの場所すら分からないくらいで。しかもこの職場が代表と先輩と自分だけしかいなくて、朝出社するのは自分だけだったんです。だから、誰に教わるというわけにもいかなかった。調べようにもネットがない時代だから、ひたすら触るしかない。はじめての入稿のときも、印刷所の方に直接やり方を聞いたくらいでした。


●海野氏が思う、デザインやグラフィックデザイナーとはどんなものでしょうか



 デザインって手段だと考えています。パッケージは中の物を売るための手段だし、広告をなにかを伝えるための手段。伝わらなくては意味がない。だからアートとは、似ているようで、似ていないんです。アートとは目的。言いたいことを表現するもの。言ってしまえば、自己満足でもいいんですから。



海野氏の携わった商品広告たち



 それにデザインに唯一無二の正解はないんです。それこそ無数にあると思います。そしてもどかしいことに、その中のたったひとつの正解でさえ実際に作って発売するまでは分からない。しかも反応は、時代や流行りによって左右されてしまう可能性もあるので、それがノイズになって正解が分からないという時もある。たまたま流行って売れたものが正解と言えるかどうかは難しいところですからね。これを運と一言で片づけるのは簡単ですが、それではどうにももったいない。そういうときに自分なりにコンセプトのようなものを決めて作っていれば、そこから検証できることもあったりするので。だから、なるべく考えるようにはしていますね。
 例えば、ドックフードのパッケージをデザインするときは、ネットの写真で見るだけではなく、直接店に行って本物を見にいきますね。そうすると、店内の明るさだとか、これをすると他のものと色が被ってしまうとか、店頭に並んだ姿を目の当たりにすると意外と発見があったりするんですよ。それにデザインにも映えや流行りというのは、やはりあると思うし。
 ただデザインの根幹は同じかもしれないですけどね。流行りは所詮、見た目の問題だから。芯はどこかにあって、それを少し変えるくらいでいいんだと思います。言ったって、中身はドックフードですしね。