玉樹 真一郎

プロフィール Shinichiro Tamaki : 玉樹 真一郎 1977年生まれ。東京工業大学・北陸先端科学技術大学院大学卒。プログラマーとして任天堂に就職後、プランナーに転身。全世界で1億台を売り上げた「Wii」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わり「Wiiのエバンジェリスト(伝道師)」「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」と呼ばれる。 2010年任天堂を退社。青森県八戸市にUターンして独立・起業、「わかる事務所」を設立。全国の起業や自治体などで、コンセプト立案、効果的なプレゼン手法、デザイン等をテーマとしたセミナー、講演、ワークショップ、プレゼン等を年60回以上おこなうほか、コンサルティング、ウェブサービスやアプリケーションの開発等を行いながら、人材育成・地域活性化にも取り組む。 2011年5月より特定非営利活動法人プラットフォームあおもりフェロー。2014年4月より八戸学院大学・地域経営学部特任教授。2019年4月より八戸学院大学・学長特別補佐。2017年4月より三沢市まちづくりアドバイザー。著書に『コンセプトのつくりかた』(ダイヤモンド社)がある。

公式ホームページ http://wakaru-office.com

 『コンセプトのつくりかた』から7年の歳月を費やした渾身の作。玉樹真一郎 氏の待望の著作『「ついやってしまう」体験のつくりかた』は一昨年登場以来瞬く間に時代を席巻。ゲーム業界はもちろん、クリエーターにとっての最高の必読書として話題を独占した。今回はその執筆された本に関するお話しはもちろんのこと、前職の任天堂株式会社で携われている「Wii」のことやゲーム業界のこれからの話、クリエーターにとって重要なこととは、今日から、いや今からでもすぐ出来るクリエーターにとっての自分育ての方法まで、たっぷり20000字インタビューを敢行。ここにお届けします。

 玉樹先生の著書『「ついやってしまう」体験のつくりかた』を拝読させていただき、興味深く、大変勉強になり個人的にも手許に置いておきたい一冊になりました。今回の本をお書きになるにあたり重要視したことはなんでしょうか。

 『「ついやってしまう」体験のつくりかた』は名作と呼ばれるゲームを分析して、「おもしろい」とは結局どのようなことなのかということを分析、抽象化したうえで、仕事にも使える体験をデザインするときの武器にしてもらえればという気持ちで書いた本です。

 

  一番重視したことは本の内容もそうなのですが、もっとメタ的なところです。この本は、一言でいうと「おもしろいゲームはおもしろいぞ」という事を言っているのですが、そんなことを言っている本自体がおもしろくなかったら、どうでしょう?  この本がゲームのおもしろさを説明しているのであれば、この本もゲームに使われている手法を使っておもしろくないとゲームに失礼となってしまいます。文中で寝遺作ゲームを扱ってしまったので、是が非でもこの本をおもしろくする必要がありました。これが実現できていなかったらこの本は出せないとすら思っていました。

 玉樹先生の著書はいずれも、言葉が堅苦しくなく、とても読みやすいだけでなく、驚きや感動と共にとウンウンと頷いてしまい、なんと言いますか心に浸透してくるように入っていった感がありました。執筆にあたり伝えることのむずかしさや、言葉選び、表現上で苦心なさったことなど、を教えていただければと思います。

 言葉選びは基本的にできるだけわかりやすく簡単に、と思っています。 『「ついやってしまう」体験のつくりかた』にも書いてあるのですが、ゲームって最後まで遊んでもらえれば大体好きになってもらえるんです。ゲームに限らず、本もコンテンツも全部一緒です。

例えば拙著では、第1章の「直感のデザイン」を読んで疲れたり本を読むのに飽きた場合のために、第2章には「驚きのデザイン」を配置して疲れや飽きを払拭しようと試みたりしています。

 たとえば深夜に聞いたこともない映画をテレビでやってることがありますよね。なんとなく眠れないので、夜中の1:30から3:30くらいまで映画1本をなんとなく観てしまった、という体験をしたことがあるでしょう。観終わったら結構おもしろいと感じる。これは環境の力なんですね。「今それしかやることがない」という状態で、最後まで観てしまう。最後まで観終わってしまったからこそ、好きになるというわけです。

 この本は、読んでいただければわかるのですが、最初にネタ振りをして、どんどん展開していきます。ネタ振りと展開を続けていく、次のページの予告をし続ける、といった感じです。ですから結果的に、やめるタイミングがない、読めてしまう。そんな本を目指しました。

 私は本を読むのがあまり得意なほうではありません。自分では頑張って読もうとしているのに、結果的には本が最後まで読めないという体験を何度もして、そのたびのまるで「お前は本も読めないバカだ」と言われたように思えて、ガッカリしてしまいます。だからとにかく読めるようにする、そしてわからないことを作らないということを強く意識して書きました。

 学術書とかビジネス書って小むずかしい言葉ばかりになりがちですが、それは絶対に避けようと思っていました。言葉遣いもできるだけ平易にしたかった。ただし、伝わりやすいこととは言葉遣いや言葉選びだけではないと考えています。読み続けられる体験とはどのような体験だろう? と考えていくと、言葉選びもとても大事だけれど、話の持っていき方やページをめくるタイミングでなにを体験させるか、させられるかなども大切だと思っています。そして、それこそがゲームのおもしろさの鍵でもあると思っています。