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ギルドのようなゲーム会社『iMel』 《取材内容全公開版》

●『ラズベリーキューブ』
PS4 / Switch
販売元:iMel
©まどそふと/iMel

Q3 『ラズベリーキューブ』や『ワガママハイスペック』といった原作のあるゲームを移植開発することに着手なさっておられますが、移植というのはどういった流れで開発に至り、完成に向かっていくのかでしょうか。


高橋
なるほど。開発工程を聞きたいのか、制作のドラマを聞きたいのかで話が分かれてきますが。

インタビュアー
できれば、どちらも聞きたいですね。

高橋
そうですね……ではまずゲームの移植について説明しておきましょうか。ここでの「移植」は、例えば今パソコンで動いているゲームがあるとすると、これを別種のゲーム機であるPS 4やNintendo Switchでも動かせるようにしよう、という対応作業です。

インタビュアー
私たちは素人なのでありがたい解説ですね。

高橋
いえいえ。ここから本題に入っていきます。まず、パソコンで動いているゲームがあったら、それは何の対応もしないでそのままそっくりiOSで動く、Nintendo Switchで動くなんてことはありませんね。まず、1度パソコンで動いているゲームの中身を見て、「あ、こういう技術が使われているんだ」とか「こういう構造や素材になっているんだ」というのを解析します。

インタビュアー
うわー、聞くだけで大変そうな作業ですね。

高橋
いえ、実際ここはそれほど大変ではないですよ。問題は次です。

インタビュアー
次?

高橋
解析の次に、自分たちが持つ技術基盤と比較します。普段使うゲームエンジンやシステムの構造や作法、、使い慣れているツール、素材はこういう画像や音だったらやりやすいよ、という感じで、自分の足場のようなものがあるわけです。その足場と移植元の解析結果を比べて、どのように変換や加工の流れを組むかということを考えなくちゃいけないわけですけど、これが一番時間かかりますね。

インタビュアー
パソコンで使っている技術は必ずしも『PS 4』や『Nintendo Switch』で使えるとは限らないから、代用できる技術を自分たちで探さなくてはいけないということですか?

高橋
まさにその通りですね。とにかく世の中にあふれるゲームはなにひとつ同じものはありません。どんなゲームにもそれぞれ特徴があります。その特徴を自分の足場になるべくそっくりマネするように考え、移植元と同様に動くよう作業するというのが基本となる工程です。

インタビュアー
……正直移植がここまで大変なものだとは思っていませんでした。

高橋
全くの苦労無しでできるようには、残念ですけどなりませんね。

インタビュアー
ちなみにクライアント(お客様となるゲームメーカーなど)から「ここもっとこうしてほしい」なんていう指示はあるんでしょうか。

高橋
クライアントによってまちまちですけれど、移植の場合ほとんど指示はないです。それはなぜかというと、「完成形は元のゲーム」という絶対的な理想があるからですね。でも変更部分があったり、+α要素があったりすると、指示があることもありますし、どれくらい再現したらいいのかというところについて言及してくださるクライアントもいます。ただ、多くのケースではあまりそういうのはなくて、「このゲームをiPhoneで動かせるようにしてほしい」のように漠然としたオーダーが多いです。

インタビュアー
私、移植版の『ラズベリーキューブ』を買わせていただいたんですけど。

高橋
ああ、すみません。ありがとうございます。

インタビュアー
いえ、もう自腹で買わせていただきましたよ。

(一同笑い)

インタビュアー
これにも原作とは違う要素が入っているのでしょうか。

高橋
あ、ございます。

インタビュアー
あるのですか?

高橋
皆さん、十八歳は過ぎていますか?

インタビュアー
はい。

高橋
だとしたら、原作をプレイしてもらえるとよく分かると思いますが、移植版は家庭用ゲーム機向けのため当然成人的な部分はカットされていて、一部のシーンは差異があります。シナリオだけではなく絵の周りにも修正が入っています。

インタビュアー
そうだったのですか?

高橋
はいそうです。露出が多いところは隠したり。

市川
よくあのアニメなんかのお風呂シーンとかで湯気が多いけど、Blu-ray版だと湯気が少ない、みたいな話があると思いますけど、まさにそういうことが行われています。

インタビュアー
では『ラズベリーキューブ』における湯気はiMelが付け加えたのでしょうか。

高橋
いえ、『ラズベリーキューブ』に関しましては、私たちでそういった修正はしていないです。ただ、クライアントによっては「iMel側で湯気増やしてほしい」とか、「光を入れてほしい」というケースもあります。iMelでも対応できるようにはしています。


●『ワガママハイスペック』
PS Vita
販売元:iMel
©まどそふと/iMel

Q4 iMelの仕事体制はどういったものなのでしょうか?


高橋
イメージしやすそうなところでいうと、オンラインゲームのギルドクエストに近いですね。企業から「クエストを受注して、ギルドの中のアクティブなメンバーで捌く」みたいな感じです。

インタビュアー
イメージしやすいですね。

高橋
案件ごとにパーティも毎回違って、「今はこの辺りの人がマッチングしやすいから今回はこのパーティで行くか」みたいな感じで都度決めて、プロジェクトを一つ一つ消化していますね。

インタビュアー
iMelという会社がギルドとして成り立っていて、そのギルドに来る依頼をギルドに所属している高橋さんたちが受ける……なんだかゲーム会社だけにゲームっぽい流れになってきましたね。

高橋
そんな感じになっていますね。本来私がギルドマスターという立場になるのでしょうが、「ギルド内では社員だろうが社員じゃなかろうが、誰が偉いとかなくて、みんなで粛々と敵を切っていく」を作戦コマンドで採用していますね。

インタビュアー
今度はRPGですか(笑)社員じゃない方もiMelに所属しているのでしょうか?

高橋
はい。プロジェクトを動かしている構成は役員の私と、社員の足立・鳴神・市川の3人、他に外注スタッフの方々です。

インタビュアー
そうだったのですか。そういえば高橋さん、取材に入る前に「この4人で実際に顔を合わせるのは今回で2度目」とおっしゃっていましたが、社員同士なぜそんなに会う機会が少ないのですか?

高橋
私たち住んでいるところがみんなバラバラなので。鳴神は今回大阪から来ています。

インタビュアー
え、大阪からわざわざ⁉ あ、ありがとうございます。

鳴神
いえいえ。

高橋
うちは完全リモートワークなので、そもそも集まる機会が少ないんです。

インタビュアー
リモートワークというと在宅勤務のことですか? リモートワークを実際に動かすのは難しいって聞いたのですが。

高橋
私はリモートワークを特別意識したことはありません。私の場合、完全に大学生になる前の、つまり同人でのゲーム制作の体験からくるものの延長でしたので、ネット上で見たことも会ったこともない人と「顔を突き合わせずに何かひとつのプロジェクトを成し遂げる」ということ自体に慣れていたというか、むしろそっちのほうが集中しやすく好都合というのはありますね。会社としても2011年の創業からずっとこのスタイルです。

インタビュアー
すでに土壌があったのですね。

高橋
ええ。少なくとも私はそうでした。周りの人も、おそらく付き合う中でリモートワークに適性のある人だけ残っていくのではないかなと。そもそもリモートが苦手な人は応募もしないはずなので、出会うこと自体が稀です。ちなみに労働時間もシフト制で、9時から22時までの間に8時間働いてくれれば何時スタートでもいいようにしています。

インタビュアー
はぁ、なるほど。結構珍しい形の働き方のようにも感じますが。

高橋
そうでもないですよ。いずれも仕組み自体は世の中にすでにあるもので、それらの集大成をかき集めているだけですから。世の中ちょうど時流もありオンラインチャットのツール競争も盛んになっていましたし、テレワークやリモートワークやクラウドソーシングといった単語への関心も高まってきているところだったので、周りからもずっと良い影響を受けています。

インタビュアー
オンラインチャットで仕事ですか……本当にネットゲームみたいですね。

高橋
たしかにネットゲームの感覚に近いものがありますね。社員はチャットで「hi」「今から始めるよー」と言えば自動的に記録され、仕事が終わるときに「おつ」「寝ます」のように発言すると1日の仕事終わり、みたいな。

インタビュアー
あの、TCAの中にもゲーム科の生徒がいるのですが、実際専門学校生は求めていたりするのでしょうか。

高橋
はい。募集しています! プログラマーや演出者(演出スクリプター)、キャラクター原画や背景などの彩色を行うグラフィッカーなど、iMelでは常時募集しております。Webサイト( http://imel.co.jp/ )からお問い合わせください。

インタビュアー
在学しながらでもiMelでお世話になることは可能なのですか?

高橋
可能です。実際に学生や副業のスタッフも多くいます。在学しながらでも特に負担にならない範囲で、手伝っていただいております。もちろん締め切りはありますが、カッチリしたノルマはありません。

市川
そうですね。バイトと同じと考えてくれればいいです。

高橋
初めは少量・小規模の作業からおすすめしています。プロジェクト途中での担当量の増減も原則OKにしています。

インタビュアー
現在も専門学校生がiMelさんでアルバイトしていらっしゃるのですか?

高橋
はい。何人かいらっしゃいますよ。外注スタッフの形態です。。ちなみに現在は社員である市川も、出会った当時は専門学生でした。

インタビュアー
そうだったのですか? あの、せっかくなのでお聞きしておきたいのですが、市川さん、鳴神さん、足立さんの入社した経緯はどういったものなのでしょうか。

高橋
市川は、私が専門学校内の説明会に行きまして、そこで当時は学生だった市川が興味を抱き応募してくれて、外注スタッフとして学生のころからiMelに来た仕事をこなし、のちのち社員になりました。

市川
もともと在席していた専門学校ではシナリオライター専攻で、実は作家を目指していましたよ。

インタビュアー
そちらの話も気になりますけど、話が逸れそうなのでこらえましょう。

高橋
で、鳴神はもともと取引先のゲームメーカーに勤めていました。ゲーム開発における上流工程側の人間です。要はiMelに発注や指示を出していた人ですね。前の会社を意外なタイミングで辞め、頼み込んで入社してもらいました。2019年の2月ごろだったかな?

インタビュアー
かなり最近なんですね。

高橋
そして、足立はこの中で社員として一番の古参に当たります。かつてTwitterでプログラマーやスクリプターの募集をした際に、応募してきてくれました。足立は初期から器用で、センスも実力もあったので早期に演出のリーダーをしてもらいました。その後、足立が演出リーダーからシステム開発へ転身することになりました。、その際に足立に後任を指名してもらい、市川に演出のリーダーを交代してもらいました。

インタビュアー
だから市川さんの肩書きが演出最高責任者になっているのですね。

高橋
そうですね。

インタビュアー
はぁ……最初は社員が高橋さん1人だったのが、どんどん仲間を集めていって今の形があるのですね……やはりRPGみたいですね。

高橋
本当に仕組みや感覚はゲームのようです。

インタビュアー
なんだか楽しそうですね。